***  2月の詩  ***

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 旅に出る


大好きな画集を見ていると
旅に出たくなる
一面に広がる絵の具の海
じっと見つめる絵の具の眼

平面に描かれた一枚の絵
ふっと手を伸ばせば
その一点が秘密の入り口
新しい旅立ちが待っている

その絵を見ながらも人は
もう絵の前には留まっていない
目の前に広がる草原に
柔らかな肌のきらめきに

寄り添うようにいざなわれ
絵のなかの世界に旅立ってゆく
身支度などいらない
こころひとつあればいい

一冊の本を読むように
開いたなら読み終えて閉じるまで
旅の道はどこまでも続いてゆく
見て聞いて風を感じてふと触れて

どんなにささやかな物語でも
どんなに大きな時の流れでも
いまここにいる自分の歩みが
これからの旅を切り開いてゆく

もちろんふと我に返れば
目の前にあるのは一枚の絵
けれどなぜだろうこの懐かしさ
旅に出る前との目覚めの違い

旅は変わらぬ日常に戻ってくる
でもこの絵は前とはどこかが違う
見てごらん絵のなかに
また旅をはじめる
だれかの背中が大きく見える











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