***  5月の詩  ***

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 樹を想え


樹を想え
見上げる前に樹を想え
語りかける前に
語りかけられる前に樹を想え

樹を想え
触れる前に樹を想え
過ごした年月を
共有する前に樹を想え

道はだれかがつけたはずだ
一度ではない
何度も何度も行き来して
うっすらとした踏み跡が
一筋の切れ込みになったはずだ

樹を想うことは
踏み跡をつくることだ
いつか道になるかもしれない
踏み跡が消えて
永遠に道にならないかもしれない

最初ははにかんで
次に遠慮がちに
少しだけ大胆になって
やっと目をあわせられて
はじめて向きあうことで
想いが膨らんでゆく

樹を想え
風に吹かれながら
雨に打たれながら
陽にさらされながら
これっぽっちも伝わらなくても
これっぽっちも伝えられなくても

けれどまっすぐに樹を想え
理由も結果も解決もいらない
できることはひとつだけ
ただひたすら樹を想え









5月の詩 樹を想え

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