***  9月の詩  ***

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 記憶


どこまでが わたしなの
あなたはつぶやく
じっと前を見つめたままで
過去の話をするいつもの顔で

こうしてあなたのとなりにいて
ならんで話しているときに
わたしの記憶はこぼれてゆく
飛ばされる羽つきの種のように

あなたはけんめいに拾おうとする
こぼれる種をその掌で
わたしの肩を抱き 頬を包む
その柔らな掌で受けとめようと

でもその掌にわたしは乗れない
わたしの輪郭を溶かしてでも
記憶というさらさらの液体は
あなたの掌にはとどまれない

どこまでが わたしなの
あなたはつぶやく
よりそうわたしの瞳にも
あなた自身にも求めるのではなく

風が知らないところから急に
大きな揺らぎを運んでくる
驚くほどの一瞬の静寂
記憶の奥の奥のずっと奥から

あなたは透明になってゆく
望みがかない時間が溶けてゆく
あなたは記憶そのものになって
ガラスの空蝉のように掌に踊る

でもそれは もうあなたではない
ガラスの空蝉が風にも飛ばず
掌のしわに吸い込まれ消えて

これからが わたしなの









9月の詩 記憶

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