***  3月の詩  ***

戻る


 旅立ち


弥生はじめの太陽は
わたしの春へと光るとびら

眠った風が夢から覚めて
足の小指からもぞもぞ動く

蕾は半分開いた口を
だれかに触れるまで待ちつづけ

大地から誘う土の匂い
さえずる鳥たちと会いにくる

もうずいぶん長いあいだ
忘れてしまったメロディが
とびらの前にわたしをいざない

積みあがった冬の残骸から
ひとつひとつうなずいて
再生の泉が湧き出てくる

とびらの向こうはどこだろう
とびらのこちらはなんだろう

知っているようで知らない場所
知らないふりして明日が呼ぶ

音でなくても匂いでなくても
まして見えるものでなくてもいい

こころにつながる薄い皮膚が
ぞくりぞくりと脈うったのなら

さあ 旅立つとき
光るとびらに利き手を添えて









3月の詩 旅立ち

Copyright© 2020 yumegoro (shiawase no kijun)