***  7月の詩  ***

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 呪文


あなたをふいにたずねてゆく
それだけで理由がわかっていた
いま思うと当たり前のこと
迷ったときしか顔を見せない

手で持てない熱い湯呑みと
寄せ植えの花のような菓子鉢
磨きこんだテーブルに並んで
何気ない近況報告を聞いている

笑顔と止まらないおしゃべり
好きな花の開き具合と手入れ
好きな歌手のライブの話とグッズ
ねえこれどう動かすのと使い方

そのまま何をしにきたか
まあいいかと忘れたふりをして
そろそろ帰るはと縁側に腰かけ
帰り際にぽつりとひとことこぼす

庭を眺めながら頷き聞いて
最後に目を合わせてひとこと
気にしないほっときなさいよ
ひとはひと、じぶんはじぶん

結局なにも解決しなくても
また来るねと手をふって
帰り道で母をまねてつぶやいた
ひとはひと、じぶんはじぶん









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